大判例

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大阪地方裁判所 昭和39年(わ)187号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(罪となるべき事実)

第一 一、昭和三八年一〇月六日午前一時過頃、被告人浜口、同吉田、同小林は、谷川義雄所有のプリンス乗用自動車に同乗して大阪市城東区今福中一丁目五〇番地の右池田組事務所の様子を窺いに赴いた際、同事務所付近に人影なく、被告人らの襲撃に備えて警戒する気配がみえなかつたところから、ダイナマイトを右事務所内に投擲してこれを破壊するとともに、その場に居合わす池田組々員を殺傷して前記山本道男殺害に対する報復を計らうと考え、右被告人三名において共謀の上、一旦同市都島区御幸町二丁目七番地アパリト富士苑内の被告小林の居室に引返し、同室において、かねて被告人浜口が高木秀夫より譲り受けていたダイナマイト二本(大阪地検庁外検領昭和三九年第五〇号、立川マイト株式会社において保管中のもの)に雷管、導火線を装置した後、同日午前五時頃、被告人小林においてこれを携行し、被告人浜口の運転する前記乗用自動車に被告人吉田、同小林が同乗して右アパートから前記池田組事務所付近の路上まで赴き、もつて人の身体財産を害せんとする目的をもつて爆発物を所持し、<中略>

三 被告人浜口は、前記第一のダイナマイトによる池田組事務所の襲撃計画が失敗に帰したことから、再び同様の襲撃を敢行しようとその機会を窺つていたが、右事務所付近の警戒がさらに厳重になつたため、容易にその挙に出ることができなかつたところ、早朝頃にはその警戒も手薄になるに相違ないものと思いいたつたところから、被告人吉田、同小林同鈴木および前記岡本と共謀の上、前同様の目的をもつて再度池田組事務所を襲撃しようと企て、同月一四日午前七時前頃、かねて被告人浜口および同吉田が雷管および導火線を装置したダイナマイト二本を牛乳の空びんにつめておいたもの一個を被告人小林において携え、右岡本の運転する藤尾一夫所有の乗用自動車に被告人小林、同鈴木が同乗して池田組事務所付近路上まで赴き、もつて同所において人の身体財産を害せんとする目的をもつて爆発物を所持し<中略>たものである。

(判示第一の三の所為につき爆発物取締罰則三条を適用した理由)

検察官は、判示第一の三の所為につき、被告人小林は、池田組事務所付近の路上において、同事務所内に投げ込むため、ガスライターで前記ダイナマイトの導下線に点火したが、投擲の機を失したため、自己の手許でこれを爆発させたものであるから、同被告人らの右の所為については、爆発物取締罰則一条所定の爆発物使用罪をもつて処断すべきであると主張するので、この点について検討するに、前顕採用の各証拠を総合すると、(一)被告人小林および鈴木は、前記岡本の運転する自動車に同乗して(被告人小林は後部客席に、同鈴木は助手席にそれぞれ着席)、池田組事務所内にダイナマイトを投げ込むため、同事務所前を東西に通ずる国道を東方より西方に向つて進行し、同事務所の東方約五〇メートルの地点に達した頃から右自動車を徐行させるとともに、被告人小林において、持つていたガスライターで前記ダイナマイトの導火線に点火し始めたこと、(二)しかるに、同被告人が極度に狼狽していたところから、容易に導火線に点火することができないまま、右自動車は池田組事務所の前を通りすぎ、被告人小林において漸くこれに点火して右自動車を停車させたときには、すでに同事務所の西方約一二四メートルの地点(蒲生四丁目バス停留所前)に達していたこと、(三)被告人小林は停車後直ちに右ダイナマイトを投擲しようとしたが、とつさの間に、すでに池田組事務所を遠く通りすぎていることに気付くとともに、目前のバス停留所に二、三人のバス待ちの人影を認めたことから、右ダイナマイトを投擲することができなくなり、これを右手に持つたままその処理に窺してうろたえるうち(もつとも被告人小林が直ちに池田組事務所へのダイナマイト投擲を断念したか否か、同被告人が車のバツクを命じている事実も窺われるので疑わしいところであるが、いずれにしても車が思うように後退せず、処置に窮している間に爆発の時間が切迫し、遂に当初の目的を放棄したことにはかわりがない)、程なく右自動車内でこれを爆発するにいたらせたこと、(四)このため被告人小林は右手に重傷を負うにいたつたこと、以上の各事実を認めることができる。しかして、右の認定事実からすると、被告人小林としては、池田組関係者の身体財産を害せんとする目的をもつて右ダイナマイトの導火線に点火したものであるけれども、これを加害目標たる同組関係者の身体財産を害する虞のある状況の下に置くことができないまま、間もなく右加害目的を消失するとともに、自己の手中においてこれを爆発するにいたらせたものといわなければならない。

ところで、爆発物取締罰則一条にいわゆる「人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的ヲ以テ爆発物ヲ使用」すると言いうるためには、加害目標たる人の身体財産を害する虞のある状況の下において爆発物を爆発すべき状態に置くことを要すると解するのは相当とし、したがつて、ダイナマイトを用いてする場合にあつては、導火線に点火した上これを加害目標たる人の身体財産を害する虞のある状況の下に置くか、もしくはかような状況の下におかれているダイナマイトの導火線に点火するかいずれかであることを要するものというべきところ、これを本件についてみると、被告人小林が、池田組関係者の身体財産を害せんとする目的をもつて本件ダイナマイトの導火線に点火したものの、これを加害目標たる同組合関係者の身体財産を害する虞のある状況の下に置くことができないまま、(即ち目標から一二四メートルも離れた地点で)右加害目的を消失するとともに、自己の手中においてこれを爆発するにいたらせたことは右認定のとおりであるから(同被告人が池田組関係者の身体財産を害する虞ある状況におかれているダイナマイトの導火線に点火したものでないことは前記認定に徴して明らかなところである)、同被告人の右の行為をもつて「人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的ヲ以テ爆発物ヲ使用」したものということはできない。もつとも、「爆発物取締罰則第一条ニ所謂爆発物ノ使用トハ、同条所定ノ目的ヲ達スルカ為メニ爆発可能性ヲ有スル物件ヲ爆発スヘキ状態ニ措クノ謂ニシテ、現実ニ爆発スルコトヲ必要トセス」とする判例があり(大審院大正七年五月二四日判決、刑録二四輯六一三頁)、この判例からすると、ダイナマイトを用いてする場合にあつては、一見、導火線に点火するだけですでに爆発物を使用したこととなり、したがつて、人の身体財産を害せんとする目的をもつてダイナマイトの導火線に点火した以上、その後にいたつて行為者が加害目的を喪失したかどらか、またはそのダイナマイトを加害目標たる人の身体財産を害する虞のある状況の下に置いたかどうかに拘わりなく、それだけで右法条にいわゆる爆発物使用罪が成立するといわざるを得ないかのようにみえないわけではないけれども、右の判例はそのことを明言しているわけでもなく、またかような見解を採る限り、右のごとき加害の目的をもつてダイナマイトの導火線に点火した以上、一度でも加害目的を達し得るような状況に置いたならば格別、それ以前に直ちに翻意して自ら右導火線の火を消し止め、事なきを得たような場合においても爆発物使用罪の責任を問わなければならないこととなつて、極めて不当な結果を招くといわなければならない。右の判例は、「炸薬雷汞綿火薬および塩酸加里硫酸入の小硝子管、鉄葉罐、銅罐をもつて製造した擲弾」を、殺害の目的をもつて目標たる人の足許に投擲したが、投擲力が微弱であつたため爆発するにいたらなかつた、との事案(即ち、この事案では爆発物が加害目標たる人の生命、身体を害する虞のある状況の下に置かれていることが窺われる)について、たとえ現実に爆発しなかつたとしてもその行為は前記法条所定の爆発物使用罪に該当することを判示したものであるにすぎず、またそのように解すべきものであるから、前記説明が右の判例に牴触するものということもできない。したがつて、検察官の前記主張は、これを採用することができない。

なお、被告人小林が、右のごとき加害目的をもつて「爆発物ヲ使用セントスルノ際発覚シタル者」に当らないことは、前記認定に照らして明白なところであつて、これについて爆発物取締罰則二条を適用するに由がないというべきであるから、同被告人の右の行為に対しては、結局、同罰則三条を適用するよりほかはないといわなければならないのである。(田中勇雄 権藤義臣 藤原弘道)

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